GRAVITAS&GRACE

( Who is gravitas & grace? / 003 パブロ・ピカソ )

「賭けてもいいけれど、とかれ(ピカソ)はいいました。あの連中が着ている当節流行の三つ揃い(コンプレ)なんぞより、昔おれたちが着ていたあのラフで粗末な服のほうが確かにずっと金がかかっていたはずだよ」
当時パリの芸術家たちのサロンと化していたガートルード・スタインのアトリエで、若い絵描きたちの「立派な」服装が話題になった時、パブロ・ピカソが答えた言葉が『アリスト・B・トクラスの自伝』の中にある。
確かにピカソの装い、たとえばボーダーのカット・ソーなどは現代では時代を超えたスタイルとして多くの人に愛されている。
しかし、多くの人にとって、当時それは単なる放出品や作業着にしか見えないものだった。
さらに、トクラスの言葉を借りてガートルードが続ける。
「じっさいみなさんには想像もつかないでしょうけれど、当時、ちょうどいい工合にラフでその上汚れてみえる英国製ツイード、あるいはそれのフランス製イミテーションなんてものを見つけることは、それはそれはむずかしく、そしてまたお金もかかったものなのです」
あらゆる常識や思い込みを捨て、まっすぐに物の本質を見極め、真の意味でのリアリティを写実的に描写した画家、パブロ・ピカソ。
彼の装いはそのまま彼の芸術の一部であり、生活だった。肖像画の傑作として名高い『ガートルード・スタインの肖像』について、ピカソはこう語っている。
「みんなあれはかの女に似ていないっていうけれど、そんなことはどうだってかまわない、そのうちにガートルードのほうが似て来ます」
風評や既成概念にとらわれることなく、自らの審美眼だけで描き続けた男、パブロ・ピカソ。
ただ、愛し、ただ、描くことだけに集中した生き方それ自体が、時代を超越したスタイルそのものだった。
gravitas & graceは、生の色彩が躍動するパブロ・ピカソのパレットの中にある。

文:森 一起

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