GRAVITAS&GRACE

( Who is gravitas & grace? / 002 ガートルード・スタイン )

「自分のストーリーにある広がりをもたせようと試みる際、そのためには全く不足と思えるくらい簡潔で真実の文章を筆にするようにさせるある物を、私はセザンヌの絵から学びとっていた」
自伝的な小説『移動祝祭日』の中、「ミス・スタインの教示」という章でアーネスト・ヘミングウェイは自らの創作の秘密を垣間見せる。
もちろん、そのことは秘密だったが、唯一の理解者、そして、師ともいえる人物がいた。ガートルード・スタインである。
当時スタインは、まるで「一流の美術館の最上の部屋の一つのようだった」とヘミングウェイが記述する絵画の傑作が並べられたアトリエで仕事していた。
そのアトリエが美術館と違うところは、居心地が良く、大きな暖炉があり、ミラベルやフランボワーズなどの酒や、おいしい食べ物があることだった。
「あなた方は、服を買うか、絵を買うか、のどちらかですよ。そのくらいシンプルなことです。あまり裕福でない人は、だれだって両方を取ることは無理です。自分の服なんかには気を取られず、モードなんかにも一向とんちゃくしないようになさい。そして着心地のよい、長続きのする服をお買いなさい」
ヘミングウェイに語ったスタインは、濃く美しい髪をカレッジ時代と変わらない髪型にして、いつも自分だけのスタイルを持っていた。
その並外れた審美眼は、秘書の名を借りた『アリスト・B・トクラスの自伝』にも窺われる。
「彼がわざと歪曲した素描を用いたのは、ちょうど音楽における不協和音、料理における酢やレモン、コーヒーの濁り取りのための卵の殻などの効用と同じ原理からだったのです」
マチスの素描について論じた彼女の言葉の中に見え隠れするものは、まぎれもなくスタイルの叡智にほかならない。

gravitas & graceは、色彩のリズムに満ち溢れたガートルード・スタインのリフレインの中にある。

文:森 一起

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