GRAVITAS&GRACE

( Who is gravitas & grace? / 001 ジョージ・ボウ・ブランメル )

「もし、ジョンブル(市民)が君を振り返って見るようなら、それは君の着こなしが素晴らしいからではなく、むしろあまりにも堅苦しいか、タイト(窮屈)過ぎるか、それともファッショナブル(先端的)過ぎるかのいずれかなのだ」
友人ハリエット・ウィルソンの問いにジョージ・ブランメルが答えたこの言葉には、ボウ(美装士)・ブランメルと世に称された彼の哲学が端的に言い表されている。
ある日、リージェント・ストリートを歩いていたハリエットの前を大層めかしこんだ一人の紳士が歩いて来た。通りすがりの人々は、みないっせいに彼の姿に注目し、振り返ってまで彼を見ようとした。
しかし、その逸話を聞いたブランメルの返答は、意に反して正反対のものだった。
つまり、ブランメルは、着こなし上手な人間は決して人目に立つことはない、と断言したのである。その卓越した認識こそが、時代を超えるスタイルの確立者として、現在も彼が語られる由縁だろう。
19世紀の洒落者たちは、人目を惹く大胆なカットや、あでやかな色彩の取り合わせで奇抜なファッションを競い合っていた。 そんな中に忽然として登場したジョージ・ブランメルは、その対極にあるシンプリシティこそを着こなしの究極とした。
ブランメルの視点は、「身だしなみにおける非の打ちどころのない精妙さ」と、「完璧なまでに注意されつくした不注意」、その二つに集約されていた。
華美と奇抜さを競い合っていた世の風潮の中で、逆に控えめなデザインや色彩を用いることで誰よりも目立つ存在となったジョージ・ブランメルこそは、装いにおける厳格さと優雅さを、着こなしというキャンパスの上で、スタイルという絵に昇華させた最初の人物にほかならない。

gravitas & graceは、精妙に結ばれたジョージ・ブランメルのネッククロスの中にある。

文:森 一起

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